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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(れ)1781号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人島田武夫の上告趣意は、末尾に添えた書面のとおりである。

論旨第一点について。

論旨は、原判示第一事実の取引における売渡人は、卸売業者ではなく生産者であるから、卸売業者販売価格の適用がないのに、被告人が右価格を超えて取引したものとして処罰したのは憲法第三一条に違反すると主張するのである。しかし、所論昭和二一年九月一七日物価庁告示第六八号は、本件魚類につき単に卸売業者と小売業者との販売価格を指定していること所論のとおりであるが、同告示の十一においては「生産者若しくは生産者の団体又は卸売業者が本表の品種を水面で引き渡す場合の統制額は、その水面が地先水面である沿海市町村において適用されるその地域の卸売業者販売価格の一割五分下げとする」旨の規定があるのである。即ち、取引の場所が水面であれば生産者若しくは生産者の団体は卸売業者と同列に取り扱われ卸売業者販売価格以下の統制額によって取引しなければならないのである。そして、このことは取引の場所が陸上であっても異らないわけであるから、生産者若しくは生産者の団体が陸上で同様の取引をする場合の価格も、その地域における卸売業者の販売価格以下に統制される趣旨と解しなければならない。されば、本件における判示第一のような大量取引については卸売業者販売価格をもって統制額と解すべきものであるから、原判示大敷網合同組が所論のように生産者若しくは生産者の団体であったと仮定したところで、原審が右取引に卸売業者販売価格を適用したことは正当である。それゆえ、憲法第三一条の違反を主張する論旨は、その前提を欠くのであるから問題とならない。

同第二点及び第三点について。

指定出荷機関又は指定荷受機関以外の者が、鮮魚介の配給に携ることのできないことは所論のとおりであって、これ以外の者が鮮魚介の卸売をするときは処罰されるのであるが、このことは、物価統制令に基く前記告示において卸売業者というときは必ず指定出荷機関又は指定荷受機関であることを要することを意味するものではない。けだし、価格の統制は正常のルートである業者の取引を対象とするだけではなく、その他の取引にも及ぶものと解すべきであることは、前記告示が先に説明したように生産者の販売価格を卸売業者の販売価格と同列に取り扱っていることからも知られるのである。されば、原判決がこの見地に立って原判示第一の大敷網合同組及び原判示第二の被告人が出荷機関又は荷受機関としての卸売業者であることを証拠により説明しなかったとしても、原判示のような大量取引の事実を認定した上かかる取引には卸売業者販売価格の適用があるものと判示したことには所論のような違法はない。それゆえ、論旨は理由がない。

同第四点について。

所論水産物統制令及び右勅令を廃止した政令は、いずれも食糧緊急措置令(昭和二一年二月一七日勅令第八六号)第九条の委任に基いて制定された法令である。そして、右食糧緊急措置令は、旧憲法第八条第一項の規定によるいわゆる緊急勅令であって議会の承諾を得て法律と同一の効力を有するに至ったものであり、かかる緊急勅令の効力が日本国憲法の施行によって何らの影響を受くべきものでないことは当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第二七四九号同二五年四月一三日第一小法廷判決)とするところである。そして、右の緊急勅令及びその委任に基き制定された勅令並びに政令は所論日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第一条に定める命令に包含されるものではないから、所論のようにその効力を失ったものではない。それゆえ、これらの法令がその効力を失ったことを前提として憲法第三一条の違反を主張する論旨はその前提を欠くものであって問題とならない。

よって、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六条に従い主文のとおり判決する。

以上、裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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